唐戸市場・リゾナーレ下関・北九州空港・門司港1950団地 行政調査
視察報告書
唐戸市場・リゾナーレ下関・北九州空港・門司港1950団地
視察先:
1. 唐戸市場
2. リゾナーレ下関
3. 北九州空港
4. 門司港団地1950
視察日:2026年4月27日・28日
視察報告者
日本維新の会神戸市会議員団
黒田武志
山本憲和
さとうまちこ
平田 正
のまち圭一
唐戸市場
視察日:2026年4月27日(月)
視察先:山口県下関市・唐戸市場 下関市農林水産振興部
1. 視察の目的
ウォーターフロント開発と卸売市場の観光拠点化において先進事例である下関市「唐戸市場」を視察し、運営形態、施設構造、ならびに観光振興と卸売機能の両立に係る課題・工夫を調査する。得られた知見を、神戸市の臨海部再開発および中央市場を核とした施策検討の参考とする。


2. 唐戸市場の概要と特徴
沿革・規模:明治期に始まり、平成13年に現在地でリニューアルオープンした。卸売業者は約20社で、関連事業者を含め多様な業態が入居している。
施設構造:橋梁と同様の「プレキャスト・プレストレスト・コンクリート造」を採用し、大空間を確保している。総事業費は約77億円(国庫補助約3分の1、残余は地方債等)である。
運営の特徴(活きいき馬関街):週末・祝日に、卸売業者が一般客へ寿司や海鮮丼等を直接販売するイベントを実施している。卸売機能に加え、一般消費者が日常的に利用できる「市民の台所」としての機能を維持している。


3. 主な調査項目と知見
① 観光と卸売の両立
成り立ちの特殊性:かつての露店商(いわゆる闇市的形態)を市場内に取り込んだ経緯があり、卸売市場でありながら一般客向けの小売・飲食提供が自然な形で定着している。
集客力:週末は「活きいき馬関街」を目的に全国から来訪があり、ゴールデンウィーク等の繁忙期には関門橋方面まで数キロ規模の渋滞が発生するなど、高い集客力を有している。


② 施設管理・維持における課題
塩害・老朽化:海に隣接するため金属部の腐食が進行しやすく、グレーチング(溝蓋)交換等の維持管理費が嵩む(年間1,000万円単位)。
観光対応上の制約:市場業務(早朝)を前提とした設計のため、昼間の観光利用に対する空調設備やトイレ数量が不足している。特に行楽期は女性用トイレの混雑が顕著である。
再整備の動き:老朽化および観光ニーズへの対応を背景に、令和11年度(予定)に向けた大規模改修・再整備計画が進められている。
③ 周辺地域との連携
ウォーターフロントの一体形成:海響館(水族館)、ボードウォーク、カモンワーフ、近隣宿泊施設等が連続し、滞在・回遊の動線が確保されている。
4. 神戸市への示唆・提言
① 「食」を核とした官民一体の集客・回遊戦略
回遊性の向上:市場・商業施設・水辺空間をシームレスに接続する歩行者動線を確保し、滞在時間の延伸と回遊促進につなげることが望ましい。
広域連携の視点:周辺自治体・近隣観光資源との連携を強化し、面的な誘客と周遊ルートの形成を図ることが望ましい。
5. 総括
唐戸市場は、卸売市場としての基盤を保持しつつ、週末イベント等により観光需要を取り込み、周辺のウォーターフロント施設と一体となった回遊性を確立している。一方で、海辺立地に起因する塩害対策や、観光利用増に伴う設備不足といった課題も顕在化しており、運営・施設整備を一体で捉えた更新計画が不可欠である。本視察で得た知見を踏まえ、神戸市においても「食」を核とする官民連携の仕組みづくりと、動線整備による回遊性向上を併せて検討すべきではないか。
リゾナーレ下関

視察日:2026年4月27日(月)
視察先:リゾナーレ下関
1. 視察の目的
本視察は、星野リゾートが運営する「リゾナーレ下関」が、地域資源を活用しながら観光産業全体の価値向上に寄与している事例を確認し、地方都市における観光振興および地域経済活性化に向けた政策形成の知見を得ることを目的として実施したものである。特に、神戸市においても応用可能な取り組みや戦略について把握し、今後のウォーターフロント政策や観光施策への活用可能性を検証することを重視した。
2. 施設概要
「リゾナーレ下関」は星野リゾートが運営するリゾート施設として2025年12月に開業した。関門海峡の景観と地元の魅力を活かした高付加価値の宿泊体験を提供している。全187室の客室はいずれも関門海峡を望む設計となっており、景観資源を最大限に活用した施設構成が特徴である。また施設内のデザインには関門海峡の曲線や特産物のふぐ(ふく)の丸みをモチーフとした意匠を随所に取り入れられており、海峡のロケーションを活かした空間づくりとなっている。さらに将来的には風力発電設備の導入を検討されており、環境配慮型リゾートとしての展開も視野に入れられている。


※全室から海峡の景観を楽しめる設計で曲線を取り入れたデザインが多数。
3. 周辺環境と開業経緯
港湾開発のベンチマークとしてシドニーの事例を参照し、星野リゾートと下関市で地域の将来像を共有している。関門エリアは2025年9月に「世界の持続可能な観光地100選」を受賞しており、星野リゾートと下関市は「あるかぽーと・唐戸エリアマスタープラン」を協働で策定し、関門エリアが日本を代表数するウォーターフロントシティとなるよう、長期的かつ段階的な整備計画が進められている。周辺には関門海峡・唐戸市場・海響館・門司港・巌流島などの観光資源が隣接しており海峡を中心とした広域観光に適した立地環境を有している。

※リゾナーレ下関・海響館・観覧車・唐戸市場が近隣エリアに立地。対岸には門司港のロケーション。
4. 経営戦略の特徴
・リゾナーレ下関は「地域全体の観光価値を上げる」ことをブランド方針としており、 既存観光地との競合ではなく、エリア全体の回遊性向上を重視した運営を行っている。
・宿泊客の約4割が 市内観光・近隣飲食店利用しており、ホテル利用者が周辺エリアへ自然に回遊する動線設計がなされている。
・「海峡のデザイナーズホテル」コンセプトに、大人向けの滞在価値を重視しつつも実際には子連れ・ファミリー層の利用も多く見られる。また、愛犬と宿泊可能な客室を整備するなど幅広い層の利用者の選択肢に対応している。

※ロビーに入ると子連れのファミリーが楽しんでいるふぐプールが目に飛び込んでくる。
5. 総括・本市への提言
リゾナーレ下関の誘致により「下関=高品質な滞在ができる都市」という新たなブランドが形成されつつある。 質の高い宿泊施設の存在が都市イメージ向上に寄与する可能性があり、単なる宿泊施設の誘致にとどまらずに地域資源の活用、観光地との連携、地域経済への波及が持続可能な観光経営を実現させているという観点から本市においても応用可能な観光振興モデルと位置づけ、その効果を引き続き検証する好事例である。特にウォーターフロントフロント地区に水族館や観光スポットを有する神戸との親和性は高いものと考える。
北九州空港
視察日:2026年4月28日(火)10時~11時
視察先:北九州空港
説明者:北九州エアターミナル株式会社 代表取締役 鮎川典明様、次長 川田浩平様、担当課長 栗崎和久様、事業課 平井薫様
1. 視察の目的
北九州空港において、空港運営の現状や将来構想、神戸空港との比較、地方空港を取り巻く課題について意見交換を実施した。特に、国際貨物拠点としての北九州空港の特徴、滑走路延長の経緯、民営化・運営体制の違い、空港経営における地域戦略などについて説明を受けた。
本視察は、北九州空港における空港魅力向上に向けた取り組みを確認し、神戸空港の今後の機能強化や利用促進策の参考とすることを目的として実施したものである。

2. 北九州空港の特徴と現状
北九州空港は、開港当初から「国際貨物空港」としての機能を重視して整備されてきた空港であり、旅客中心の福岡空港との差別化を図っている。24時間離発着可能な空港であることを活かし、福岡空港の着陸運用制限時間に間に合わない航空便の受け入れを実施しており、福岡空港との補完的な連携を行っている。
現在、国際貨物は順調に推移しており、外国航空会社や国際物流事業者の利用も拡大しているとの説明があった。一方で、旅客部門については、福岡空港との競合や新幹線網の影響もあり、収益面では課題を抱えている。
特に「旅客で得た利益を国際貨物に投資し過ぎた部分もあった」との率直な説明があり、地方空港経営における収益配分と将来投資の難しさがうかがえた。
また、バス事業者やタクシー事業者との受け入れ体制を構築し、福岡市内へのチャーターバス運行を実施している。北九州エアターミナル株式会社では、プロモーション部を設置し、SNSやホームページでの発信に加え、紙媒体によるポスティングも行うなど、旅客需要の拡大と空港の賑わい創出に向けた取り組みを進めている。
3. 滑走路延長と空港整備の経緯
北九州空港は、当初から3,000m滑走路を前提に構想されていた。背景には、国際貨物輸送への対応、大型貨物機の離着陸、24時間運用空港としての機能強化などがある。
しかし開港時には、「福岡空港が2,800mである中、北九州空港だけ3,000mは認められない」という政治的事情もあり、2,500mでの開港となったとの説明があった。その後、世界最大級貨物機「アントノフ」の受け入れ実績や、欧州からの特殊貨物輸送などの実績を積み重ね、現在の3,000m化へとつながっている。
北九州空港では2027年8月頃に滑走路が3,000mへ延伸される予定であるとの説明があった。神戸空港においても、近隣空港や関係自治体との合意形成を前提に、将来的な滑走路延長や国際機能強化の可能性について、長期的な視点で検討すべきである。

4. 空港経営と民営化の課題
視察では、空港運営主体の違いによる経営姿勢の差についても議論が行われた。北九州空港側からは、福岡空港は地元資本主体であり、神戸空港はオリックスと外資系企業による運営であること、また関西空港グループは改革スピードが速いことなどの比較が示された。
民間運営による改革推進力の強さが印象的であった一方、地域密着型運営には地元との調整や雇用維持などの側面もあり、単純な比較では語れないことも感じられた。北九州エアターミナル株式会社においては、将来的なコンセッションも想定しており、他自治体の事例も参考にしながら運営のあり方を検討している。
5. 神戸空港との比較
今回の視察では、神戸空港との比較も多く議論された。神戸空港は、関西空港との役割分担、国際線制限、発着枠制限、騒音問題、環境配慮など、多くの制約の中で運営されている。神戸空港は当初国際空港化を目指していたものの、住民運動や環境問題により頓挫した経緯があり、その後段階的に国際化へ進んできた。
一方、北九州空港は海上空港であり、24時間運用が可能であることから、貨物機能に強みを持つ。ただし、アクセス面では違いが見られる。北九州空港は海上に位置し、移動手段は主にバスまたはタクシーに限定されている。神戸空港にはポートライナーが整備され、新神戸駅や三宮からのアクセスも含め、都心部との定時性・利便性の面で優位性がある。
両空港は同じ地方空港でありながら、神戸空港は都市型・旅客重視、北九州空港は物流型・貨物重視という違いが明確であった。神戸空港においては、都心近接性と公共交通アクセスという強みを活かしながら、旅客・国際便・貨物・周辺地域との連携を総合的に捉えた空港戦略を検討する必要がある。
6. 政治・地域戦略との関係
空港整備は、政治や地域戦略と密接に関係していることも改めて認識した。北九州空港では、地元選出国会議員、空港議員連盟、地元自治体などによる長年の支援が整備推進に大きな役割を果たしてきたとの説明があった。
また、神戸側からは、関西圏での空港住み分け、関西空港・伊丹空港との調整、国との関係など、政治的配慮を伴う空港政策の難しさについても共有された。神戸空港の今後の国際化や機能拡大を考える上でも、空港単体の議論にとどまらず、関西圏全体の航空ネットワークの中での位置づけを明確にする必要がある。

7. 神戸市への示唆・提言
北九州空港の事例は、24時間運用可能という空港機能を地域の強みに転換し、近隣空港との補完関係や貨物需要の取り込みにつなげている点に特徴がある。神戸空港では現状、運用上の制約があるものの、将来的には早朝国際便やアジア方面のLCCなど、時間帯や路線特性を踏まえた活用可能性を検討する余地がある。
また、空港間連携、利用者視点、アクセス強化、民間活力導入の重要性を再認識した。特に、神戸空港は都市近接型空港としての優位性を持つため、旅客利便性の向上と国際化の進展を一体的に進めるとともに、貨物・ビジネス利用・観光利用の可能性も含めて、地域経済に結びつく空港政策を検討すべきである。
8. 総括
今回の視察を通じ、地方空港経営は単なる交通インフラではなく、地域経済、国際物流、観光戦略、政治的調整、民営化、地域ブランドなど、多面的な要素が複雑に絡み合う政策分野であることを改めて実感した。
北九州空港は、福岡空港との差別化を図りながら「国際貨物拠点」として独自の方向性を模索しており、その挑戦には大きな示唆があった。神戸空港においても、都心近接性と公共交通アクセスという強みを活かしながら、関西圏における役割拡大、国際化、空港間連携を進める必要がある。
今後も地方空港の持続可能な経営と、地域活性化につながる空港政策について研究を深めていきたい。
門司港団地1950
視察日:2026年4月28日(火) 14:00~16:30
視察先:門司港団地1950
対応:有限会社吉浦ビル 代表取締役 吉浦隆紀
1. 視察の趣旨
今回視察した「門司港1950団地」は、戦後間もない1951年に建設された旧県営団地を、民間事業者が取得し、解体ではなく「使いながら再生」している事例である同団地は福岡県住宅供給公社の第1号として建設され、70年の使用期限を経て2021年に最後の入居者が退去したが、その後、有限会社吉浦ビルが入札に参加し90万円で取得。解体費が大きく、通常の不動産事業としては成立しにくい建物を、月1万円・DIY前提・3年間の定期借家という仕組みによって再生している点が特徴である。
本視察の目的は、神戸市でも増加している老朽団地・空き家について、「壊す」「建て替える」だけでなく、地域資源として活かす政策の可能性を検討することである。
2. 門司港1950団地の特徴
門司港1950団地の最大の特徴は、古い建物を「完成品」として貸すのではなく、入居者自身が手を入れる余地を価値として提供している点である。家賃は月1万円、入居者がDIYで部屋をつくり、構造や外壁を壊さない範囲で内装や水回りに手を入れることができる。材料費はオーナー側が支給し、初期費用を抑える仕組みとなっている。結果として、A棟・B棟を含む全34戸が満室となり、住居だけでなく、アトリエ、カフェ、探偵事務所、ブックカフェ、占いの部屋など多様な使われ方が生まれている。
通常のリノベーションでは1部屋あたり300万~400万円、24部屋で7,000万円規模となり、銀行融資も難しい一方、DIY方式では材料費50万円程度、電気工事等を含めても1部屋100万円程度に抑えられる。また、同団地は「1万人に1人が強く欲しがる場所」を目指している点も重要である。万人受けする標準的な住宅ではなく、古さ、眺望、廃墟感、DIY可能性、コミュニティ性を価値として打ち出すことで、若者、クリエイター、建築学生、県外からの利用者を引き寄せている。A棟だけでなくB棟も募集前から問い合わせがあり、東京、山梨、三重など県外からも利用者がいる。

リフォーム前


リフォーム後のカフェ
3. 視察から見えた老朽団地活用のポイント
第一に、老朽団地は「住居不足を補う器」ではなく、「挑戦できる余白」として価値化できる。人口減少社会では、単に住む場所を増やすだけでは需要は生まれにくい。しかし、趣味、創作、起業、副業、地域活動、学びの場といった「第三の場所」として位置づけることで、新たな利用者層を掘り起こすことができる。文字起こしでも、今後必要なのは住む場所そのものよりも、仕事と家に加えて、自分のやりたいことを叶えられるサードプレイスである。
第二に、DIYは単なるコスト削減策ではなく、コミュニティ形成策である。入居者が自ら床を張り、壁を塗り、隣人と工具や知識を共有することで、自然な交流が生まれ作業中に他の入居者が声をかけ、お茶会のような交流が生まれることが述べられている。
第三に、原状回復義務を緩和することで、入居者の主体性と愛着が高まる。一般的な賃貸住宅では、退去時の原状回復がDIYや個性的な改修の障壁となる。しかし、門司港1950団地では「戻さなくてよい」ことが前提となり、入居者が自由に空間をつくれる。文字起こしでは、DIYをした入居者は愛着が湧き、長く住む傾向があること、近隣とも良好な関係を築こうとすることが述べられている。
第四に、老朽団地は観光・関係人口創出の拠点にもなり得る。同団地には1年間で約3,000人が訪れ、北海道や海外からの見学者もあったとの説明がある。空き家や団地を単なる地域課題としてではなく、「人が訪れる理由」に転換している点は、観光地と住宅地が近接する神戸にも応用可能である。

廃墟同然のB棟であるがすでに満室となっている
4. 神戸市の現状との接点
神戸市は現在、市営住宅について「第3次市営住宅マネジメント計画」を進めており、2021年度から2030年度までの10年間で、市営住宅の再編・改修、管理戸数の縮減、市営住宅ストックの有効活用による地域課題への貢献に取り組む方針を掲げている。対象は、1980年度以前に建設された築40年以上のエレベーターのない階段室型住宅であり、基本的には廃止・移転を進める方針である。
また、神戸市は2026年度から2035年度までの「神戸市空家空地対策計画」を策定しており、空き家・空き地対策を総合的・計画的に進める段階に入っている。さらに、2024年度には老朽空家等解体補助として814戸・543件、2019年度からの累計で4,074戸・2,744件の解体補助実績があると公表されている。
これらは重要な施策である一方、門司港1950団地の事例は、「危険なものは除却する」だけでなく、「使えるものは低コストで民間・市民に開く」というもう一つの政策軸を強化すべきことを示している。
5. 神戸市政への提言
提言1:老朽団地を「一律廃止」ではなく、用途別に仕分ける
神戸市の市営住宅マネジメントでは、エレベーターのない古い階段室型住宅は廃止を基本としている。高齢化対応や居住安全性の観点から、この方針自体は理解できる。しかし、すべてを解体・売却前提にするのではなく、空き住棟・空き住戸のうち、構造上安全性が確認できるものについては、暫定活用・実験活用の対象として仕分けるべきである。
具体的には、以下の3分類を提案する。
1. 危険度が高く、早期除却すべき住棟
2. 改修して住宅として継続利用すべき住棟
3. 住宅以外の用途も含めて、民間・地域・若者に開放できる住棟
特に3については、アトリエ、地域食堂、子どもの居場所、学習室、DIY工房、若者の創業準備室、福祉団体の活動拠点など、住宅政策と地域政策を接続する活用が考えられる。
提言2:「神戸版・団地DIY活用モデル事業」を創設する
門司港1950団地のように、低家賃・DIY可能・原状回復義務の緩和を組み合わせたモデル事業を、神戸市でも試行すべきである。
制度設計としては、例えば以下が考えられる。
| 項目 | 神戸市での制度案 |
| 対象 | 廃止予定・空き住戸が多い市営住宅、または民間老朽団地 |
| 契約 | 3年程度の定期借家・定期利用契約 |
| 家賃 | 低廉なチャレンジ賃料 |
| 条件 | 入居者自身によるDIY、地域活動への一定参加 |
| 市の役割 | 安全確認、用途整理、専門家派遣、材料費補助 |
| 利用者 | 若者、建築学生、芸術家、子育て団体、NPO、地域活動団体、創業希望者 |
ポイントは、市が全額を投じて完成形に改修するのではなく、「最低限の安全・インフラ整備」と「利用者が手を入れられる余白」を残すことである。建築費・人件費が高騰する中では、行政がすべてを整備する方式だけでは限界がある。文字起こしでも、DIY方式により通常改修の3分の1程度に費用を抑えられる可能性が示されている。
提言3:用途変更・消防・建築基準の相談をワンストップ化する
視察先での質疑では、住居を店舗や事務所に使う際の用途変更、消防法、防火管理、非常灯などが大きな課題として挙げられていた。特に小規模なチャレンジ利用では、法令対応の負担が大きすぎると、事業化前に断念してしまう。
神戸市では、空き家活用を促進するために、建築住宅局、消防局、都市局、保健所、区役所が連携した「空き家・団地活用ワンストップ相談」を強化すべきである。単に「できる・できない」を回答する窓口ではなく、「この規模ならこの用途まで可能」「この使い方なら手続き不要」「ここから先は用途変更が必要」といった実務的な整理を伴走型で行うことが重要である。
提言4:民間所有者が融資を受けにくい課題に対し、市が信用補完する
老朽RC建物は、法定耐用年数や担保評価の関係で金融機関から融資を受けにくい。門司港団地でも、RCは47年で価値がゼロと見なされ、銀行から借り入れが難しいことが大きな課題であるとのこと。神戸市としては、空き家活用応援制度や既存の補助制度に加え、以下のような金融支援を検討すべきである。
・小規模改修向けの利子補給
・空き家・団地活用に特化した信用保証枠
・地域金融機関との連携による「活用実績評価型融資」
・DIY型賃貸・サードプレイス型活用への初期費用補助
・安全診断・インフラ復旧費用への補助
解体補助だけでなく、「活用するための初期費用」にも支援を広げることで、民間所有者の選択肢を増やすことができる。
提言5:団地を「若者・クリエイター・地域活動」の受け皿にする
神戸市には、芸術系大学、建築系学生、デザイン人材、スタートアップ人材、地域活動団体が存在する。一方で、若者が低コストで挑戦できる場所は限られている。空き住戸や老朽団地を、単なる住宅ではなく、若者が自分の店、工房、教室、アトリエ、地域活動を試せる場所として開放すれば、地域の担い手づくりにつながる。門司港1950団地では、建築学生、クリエイター、ブックカフェ、雑貨店、占い、探偵事務所など多様な利用が生まれ、住むだけでなく「つくる」「訪れる」「手伝う」関係人口が増えている。神戸でも、特にニュータウン、山麓部、商店街周辺、空き家の多い地域において、若者の挑戦拠点として団地を再定義する余地がある。
提言6:解体予定団地の「暫定利用期間」を制度化する
市営住宅の再編では、廃止決定から解体・跡地利用まで一定の時間が生じる。この期間に建物を閉鎖したままにすると、防犯・景観・地域活力の面でマイナスが生じる。そこで、解体までの数年間を「暫定利用期間」と位置づけ、地域団体や民間事業者に低廉に貸し出す制度を検討すべきである。
活用例としては、以下が考えられる。
・防災訓練・避難生活体験施設
・DIYスクール・リノベーション実習拠点
・地域食堂・子どもの居場所
・高齢者の趣味活動・交流拠点
・若者の創業チャレンジスペース
・アート展示・まち歩き拠点
・空き家再生人材の育成拠点
これにより、解体までの「空白期間」を地域価値に変えることができる。
6. まとめ
門司港1950団地の事例は、老朽団地・空き家を「負動産」として処理するのではなく、「低コストで挑戦できる地域資源」として再定義した点に大きな意義がある。
神戸市でも、市営住宅の再編、空き家対策、若者支援、地域コミュニティ再生を別々の施策として進めるのではなく、老朽ストックを媒介に横断的に結びつけるべきである。特に、人口減少・建築費高騰・空き家増加の時代には、「新しく建てる政策」だけでなく、「古いものを使いこなす政策」が必要になる。
神戸市政としては、危険な空き家の除却を進めつつ、使える空き家・団地については、民間や市民が小さく試せる制度を整えるべきである。門司港1950団地が示したのは、建物の価値は築年数だけで決まるのではなく、そこに関わる人の手、発信、活動、コミュニティによって再び生まれるということである。神戸市においても、老朽団地を「終わった住宅」ではなく、「次の地域づくりの実験場」として活かす政策転換を提案する。

